杉井光著『世界でいちばん透きとおった物語』(2023年 新潮文庫)を読みました。

びっくりした。

大胆な発想を思いついたものの、実現させるのは難しいし、面倒だし、やる意味もあまり無さそうだし、などと迷って、結局何もやらなかったという経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。
『世界でいちばん透きとおった物語』は、そんな思いつきを、困難さや面倒さにもめげず、完全にやり遂げた人の物語です。

びっくりした。(二度目)

―― 大御所ミステリ作家、宮内彰吾の非嫡出子である「僕」。
「僕」は宮内とは一度も会ったことがない。
宮内は闘病の末亡くなり、彼の長男から「僕」に連絡が入る。
宮内は死ぬ間際まで『世界でいちばん透きとおった物語』というタイトルの小説を書いていたらしい。しかし原稿がどこにも見つからない。なにか知らないか、と。
「僕」は、編集者・霧子さんと伴に『世界でいちばん透きとおった物語』の原稿を探し始める。――

事前に「電子書籍では出版できない本」と聞いていたので、表紙が透明なビニールで出来ているのかなとか、透明な紙のページがあるんじゃないだろうかとか、色々予想していたのですが、実際に購入してみると、いつも通りの極々ありふれた文庫本でしかありませんでした。 「透きとおった物語」とはどういう意味なんだろう、と思いながら読み進めていたんですが、終盤近くになって、あることに気が付きました。
まさか、と遡って見直しました。気が付いていなかっただけで、最初から「透きとおった物語」だったんです。もう、1ページ目からずっと。
背筋がぞっとしました。こんなこと思いついたとしても、本当にやるのか、と。

あぁ、びっくりした。(三度目)