竹林征三著『物語 日本の治水史』(2017年 鹿島出版会)を読みました

湖上に浮かぶスタジアム。「日産スタジアム」!!!

竹林征三さんの『物語 日本の治水史』という本を読みました。

私は横浜市港北区というところに住んでいます。区内で一番発展しているのは東海道新幹線の新横浜駅周辺で、日産スタジアム横浜アリーナがあります。区の中央を鶴見川という一級河川が蛇行しながら流れていて、日産スタジアム鶴見川のすぐ側にあります。

この鶴見川、昔は頻繁に水害を起こしていたそうです。

特に昭和33年(1958年)と昭和41年(1966年)には大きな水害を起こしており、流域の二万戸が浸水被害を受けたそうです。

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鶴見川の源流は標高が170 mしかありません。中流下流の勾配はだいたい1パーミル(1 km で1 m下がる)なんだそうです。1パーミルの勾配というのが他の河川と比較して際立って緩いのかどうかは知りませんが、川の勾配が緩いと水の流れも緩やかになりますし、下流の方では潮位の変化によって海水が川を逆流してきて流れが妨げられます。また神奈川県東部は低い丘陵が点在するような地形なのですが、鶴見川はそういった丘陵の間をうねうねと蛇行して流れていて、これも水流を妨げて澱ませている原因だそうです。鶴見川は水害を起こす条件がいろいろ揃っていたわけですね。

港北区内の鶴見川沿いには「大曽根」(おおそね)という地名があるのですが、「曽根」とは「砂利だらけでやせ細った土地」「流れてきた砂利が積もった場所」といったような意味らしく、たいてい洪水がよく起こっていたところに付けられている地名なのだそうです。「大曽根」という地名も水害が多かったなごりかもしれません。「曽根」と付く地名は日本全国あちこちにあって、例えば大阪にも曽根駅とか曾根崎とかありますね。もっとも地名の由来には諸説あることが多いので、「曽根」と付いていても水害とは特に関係がない場合もあるとは思いますが。

日産スタジアム新横浜公園という大きな公園の中にあります。

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この新横浜公園、公園全体がまるごと遊水地になっています。遊水地というのは、川が増水したときに、水位の上昇を遅らせるため一時的に水を溜めておく場所のことです。新横浜公園は周囲をぐるりと堤防で囲んであって、鶴見川が増水したら越流堤から水を流し込み、増水が治まったら排水門を開けて鶴見川に水を戻すようになっているそうです。洪水被害の拡大を止めるためにあえて堤防を切ったり、逆に洪水の水を川に戻すために堤防を切ったりすることがあるそうですが、越流堤と排水門はいちいち堤防を切る工事をしなくてもいいようにしてある設備という感じでしょうか。新横浜公園には東京ドーム3杯分の水が溜められるとのことです。東京ドーム3杯分っていわれてもなんかよく分からないですが、今のところ満杯になったことはないそうです。

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日産スタジアムは人工地盤(要するに高架)の上に建てられていて高床式になっています。人工地盤の下は駐車場になっています。

中央広場から見た日産スタジアム。高床式になっているのが分かります。

日産スタジアムに隣接して建てられている横浜市総合リハビリテーションセンターなどの施設も、同様に人工地盤の上に建てられています。新横浜公園の中を新横浜元石川線という片側3車線の市道が通っていますが、これまた高架です。新横浜公園の中に水がどんどん溜まっていくと、最終的にこれらの高架下にまで水が流れ込みます。そして日産スタジアムは「湖上に浮かぶスタジアム」となるのです。

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日産スタジアムの隣にある日産フィールド小机。ここも水没します。

ずいぶん前に水が引いた後の日産スタジアムに行ったことがありますが、人工地盤の柱に水のあとが残っていて「こんなところまで水が来たのか」と驚いたことがあります。

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水が引いた後の掃除が大変そうです。どうしているんでしょうか。

『物語 日本の治水史』とは全く関係のない新横浜公園のはなしになってしまいました。『物語 日本の治水史』には武田信玄加藤清正、伊奈流や紀州流などの治水事業について書かれています。鶴見川は全国に何万もあるという河川のひとつでしかありません。こういった治水事業を昔からずっと日本中の川で続けていて、これからもずっと続けていくわけですから、なんかもう気が遠くなりそうですね。